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最終話:Sunshine Again
(読了目安:約30分)
1.夏のはじまり
6月の空はどこか清々しく、Sunshine Gardenにも
夏の訪れが感じられるようになっていた。
ガーデンの入口には、子どもたちの笑い声、
風鈴の風鈴の音、ハーブの香りが
混ざり合っていた。
「すごい人だね……去年と全然違う」
悠真がつぶやくと、美咲はうなずいた。
「うん……きっと、このガーデンが
“誰かの場所”になってきたんだと思う」
この1年――彼らは、季節ごとの
イベントを通して、訪れる人たちと
少しずつ“つながり”を育んできた。
人は花を愛し、そして花は人を癒やす。
Sunshine Gardenは、ただの農園ではなく、
誰かの心に咲く“場所”になっていた。
2.もう一人の来訪者
そんなある日。
一人の男性が、ふらりとガーデンに現れた。
「ここが……あの“サンシャインガーデン”か」
日焼けした肌に、くたびれたリュック。
どこか旅人のような雰囲気を纏った
その人は、受付にいた美咲に声をかけた。
「もしかして、藤野 美咲さん?」
「はい、そうです……あの、どちら様で?」
「俺は、榊 俊一(さかき・しゅんいち)。
あなたのお母さんと、昔同じ農業研修を
受けてた者です」
美咲の表情が固まる。
「母を……知っているんですか?」
榊は小さくうなずいた。
「君のお母さんには、人生を変えられた。
“誰かのために土を耕すことが、自分の
根になる”って教わったんだ。
だから、俺……ずっと農業続けてきたよ。
感謝を伝えたくて来た」
美咲は、胸の奥がじんと熱くなるのを感じた。
3.交差する時間
ガーデンのカフェで話すうちに、
榊は母の昔話をたくさん教えてくれた。
若かりし日の失敗、笑い話、夢。
知らなかった母の顔が、
少しずつ浮かび上がる。
「彼女がよく言ってた。
“花を育てるには、まず土を愛しなさい。
人と同じだよ”って」
「……土を、愛する」
美咲は、母から直接そんな言葉を
聞いたことがなかった。
でも、今になってようやく、母の生き方が
“言葉”となって心に落ちてくる。
母は、花ではなく「土」を信じていた。
つまり、「根っこ」を。
4.新たなはじまり
その夏。
Sunshine Gardenは、地域の教育委員会と
協力して「体験型スクールファーム」
として新しい試みを始めた。
子どもたちが土に触れ、苗を植え、
自分で水をやり、季節の恵みを感じる。
ガーデンには、命を育てる歓声と
発見があふれていた。
「“答え”がないことにこそ、育てる意味がある。
それを知ってほしいんだ」
そう語った美咲の目には、もう迷いはなかった。
悠真はその横で頷きながら言う。
「じゃあ、次は“地域の食堂”も始めようか。
育てた野菜を、食卓まで運ぶ」
「“育てて、届けて、食べて、感謝して”
……最高の循環だね」
彼らの歩みは止まらない。
花だけでなく、関係も、未来も、
日々少しずつ育っていた。
5.ふたりの午後
8月のある午後。
ガーデンの一角で、美咲と悠真は
向かい合って座っていた。
「……なんか、信じられないな。
最初はただ“続けなきゃ”って
思ってただけだったのに」
「うん。でも、ちゃんと“育った”よ、
ガーデンも、私たちも」
美咲がそう言って微笑むと、悠真は
ふと、真剣な表情で口を開いた。
「……この先も、一緒に、育てていきたい。
ガーデンだけじゃなく、未来も。美咲と」
静かな風が、ふたりの間をそっと通り抜けた。
そして、美咲は小さくうなずいた。
「……うん。育てよう、ふたりで」
6.Sunshine Again
その日の夕暮れ、ガーデンに虹がかかった。
雨上がりの空に、淡く優しい色が差し込む。
子どもたちの笑い声、大人たちの談笑、
土の香り、風の歌。
Sunshine Gardenは、今日も人と人を、
つないでいた。
――光がある限り、種は育ち続ける。
そして、いつかまた“Sunshine Again”。
🌻あとがき
この物語は、名もなき街・田原の一角にある、
小さなガーデンの物語。だけどその根は、
どこにでもある“誰かの心”に繋がっている。
あなたの中にも、Sunshine Gardenのような
“場所”がありますように。育てる勇気と、
支え合う光が、きっとそこにあると信じて。
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