📓Sunshine Garden 短編

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「風のたね」

登場人物

  • ひなた(小5)
    Sunshine Gardenで育った
    元気な女の子。花と虫が好き。
  • ゆうた(小6)
    東京から転校してきたばかりの
    ちょっとクールな男の子。
  • おばあちゃん(春江)
    Sunshine Gardenの創設者。
    今は少し足が悪くなったが、知恵袋。

Prologue

夏休み。
田原の風は、都会の熱とは違って、
やさしくて、少しだけ甘い。

Sunshine Gardenでは、今年も子どもたちの
「ひみつプロジェクト」が始まろうとしていた。


1. ひみつのたね

「ねえ、ゆうた!見て見て、この種、光ってる!」

ひなたが指差したのは、ひまわりの下に落ちていた、
丸くてツヤツヤした不思議な種

「……なんかこれ、普通じゃないな。
銀色に光ってるし」

ゆうたは少し眉をしかめながらも、
しゃがんで手に取った。

「植えてみようよ!Sunshine Gardenに、
私たちだけの“ナイショの花”咲かせるの!」

「また始まったよ、ひなたの
『花とおしゃべりできる説』……」

「ほんとなんだからね!」

ふたりは小さな畑の片隅に、
そっとその種を植えた。

2. 夜の畑

数日後の夜、ふと目が覚めたひなたは、
窓の外が妙に明るいことに気づいた。

「……なにこれ……?」

畑のすみに、淡い青い光が揺れていた。

恐る恐る近づくと、
あの“ナイショのたね”の場所に、
小さな蕾が輝いている。

そして――風に乗って、誰かの声が聞こえた。

「ありがとう。君たちが、
見つけてくれたから……」

ひなたはドキッとした。

風が話してる――
あのときおばあちゃんが言ってた、
“風の言葉を聴く花”かもしれない。

3. おばあちゃんの話

次の日、ひなたはゆうたと一緒に
春江おばあちゃんのところへ駆け込んだ。

「ばあば!変な花、咲いたの!青く光るやつ!」

「へえ……それはきっと“風のたね”だね」

「えっ、それって知ってたの?」

「うん。昔、おじいちゃんと育てたことがあるよ。
夜になると、人の“ねがいごと”を吸って、
風にして飛ばしてくれるんだよ」

「ねがいごと……?」

「そう。まだ言葉にならないような、
小さな“願い”。風のたねは、
それを感じて、咲くんだ」

ゆうたは少し黙ったあと、小さくつぶやいた。

「……オレ、東京の家、好きだったんだ。
でも、もう帰れないって思ってた。
あの花、……それ、聴いてたのかな」

4. 旅立ちの夜

夏休みも終わりが近づいたある晩。
光る花はふわりと風に乗って、
綿毛のように舞い上がった。

「……さよなら、って言ってる」

「いや、“行ってくる”かもよ」
ゆうたは珍しく、にやりと笑った。

ひなたはそっと、つぶやいた。

「東京の空にも、風のたね、咲くといいな」

ふたりは並んで立ち、光の行方を見送った。
夜空はまるで海みたいで、星のかわりに
“願いの種”が流れていった。

Epilogue

翌春、東京のどこかのビルの隙間に、
誰も知らない小さな青い花
ひっそり咲いたという。

それはきっと、風のたね。

子どもたちの、小さな願いを乗せて――
今日も風は、どこかへ向かって吹いていく。

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