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第1話:ばあちゃんの青春
~風の向こうへ~
1.風のような少女
時は昭和30年代。
田原の風に乗って、少女・**春江(はるえ)**は
いつも畑を駆けていた。
「ばあちゃん、また風と走ってる!」
近所の子にそう呼ばれても、本人はお構いなし。
麦わら帽子に素足、真っ黒に日焼けした腕で、
父の畑を手伝うのが日課だった。
「おとっつぁん、もっとトマトに
水やらなきゃダメだよ!」
「はいはい、春江先生にはかないませんな〜」
この頃の春江は、学問よりも、
畑と風の匂いが好きだった。
2.夢と現実
だが、中学を卒業した春江には厳しい
現実が待っていた。家の畑を守るために、
高校進学を諦めざるを得なかったのだ。
「うちは女の子だし、家にいてくれた方が
助かるんだよ」
母の言葉に、春江は何も言えなかった。
けれど、春江の胸にはある夢があった。
「いつか、自分だけの畑を持つ」
「好きなように、自由に育てる」
春江は毎晩ノートに、自分だけの
“農園の設計図”を描き続けた。
花とハーブと野菜が共に咲き、
笑顔が集まる場所――
後の「Sunshine Garden」の
原型となる、夢の種だった。
3.運命の出会い
ある日、青年団の集まりで現れたのが、
後に夫となる健治だった。
「この辺じゃ見かけない顔だな。
お嬢さん、名前は?」
「……春江。風と土と、太陽の味方よ」
「へぇ……面白い子だ」
彼も農家の息子で、手がごつごつしていたが、
話すとどこか都会的で、時代の
先を見ているようだった。
「農業って、もっと面白くできると思うんだ。
人が集まるような畑、作ってみたくない?」
その言葉に、春江の胸のノートが震えた。
4.夢の芽
やがて結婚し、子を産み、日々に
追われる生活の中で、
春江は“夢”のことを一度忘れた。
でも――
夜、縁側で風に吹かれながら見た
星空の下で、ふとつぶやいた。
「私、まだ、あの畑……あきらめてないよ」
傍で寝ていた娘・美咲の母が小さく笑った。
「きっと、あの子に継がれるんじゃない? 夢の畑」
そして何十年後――
孫・美咲がSunshine Gardenを作った時、
春江は思った。
「夢は、必ず根を張る。
時間がかかっても、忘れなければ」
第2話:美咲の東京時代
~光を探して~
読了目安:15分
1.渋谷の空に、風はない
東京・渋谷。
美咲が初めて一人で歩いた交差点の空には、
風がなかった。
「これが……自由?」
大学進学を機に上京した美咲。
祖母・春江の畑を手伝っていた幼い
日々とは全く違う世界だった。
ビル、ネオン、人混み。
どれも“生きてる”はずなのに、どこか無機質だった。
2.焦燥のキャンパスライフ
大学では環境デザインを学び、建築の道を志すが、
答えのない設計課題に追われる日々。
「自然を取り入れる空間?
でも、それって都会の“飾り”じゃない?」
心の奥では、祖母の畑の匂いを思い出していた。
3.ある夜の再会
迷いの中、ある夜――
東京駅の近くで、偶然再会したのは、
高校の同級生・悠真だった。
「美咲……なんか疲れてないか?」
「……ちょっとね。都会は、風が通らないから」
その一言に、悠真は言った。
「じゃあ、風を起こせばいい。自分の手で」
その夜、二人で飲んだコーヒーは、
なぜか土の香りがした。
4.“帰る”という選択
大学を卒業し、一流の設計事務所に
内定をもらった美咲は、
最後の面談の前夜に、ひとりで田原に帰った。
「ばあちゃん……私、なに作りたかったんだろう」
春江は静かに答えた。
「“花”を育てたいなら、まず“土”を耕しなさい。
それは都会じゃなくても、できることよ」
その言葉に、美咲は泣いた。
帰ることは、逃げではなかった。
それは“根を張る”という、前進だった。
5.そして今
あの夜から数年――
美咲はSunshine Gardenに立ち、風を感じている。
東京で見えなかった光は、
今、足元の大地から、空へと昇っていく。
🌿あとがき
「過去を知ること」は、未来を育てること。
ばあちゃんの夢、美咲の迷い、それぞれの
“根”が交差してSunshine Gardenは生まれました。
いつかあなたの中の“風の記憶”も、
どこかの土に芽を出すかもしれません。
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