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第1話:ふたりの花畑(読了目安:約20分)
1.新しい朝
田原の町に、やわらかな春の光が差し込む。
「Sunshine Garden」と書かれたウッドボードの
看板には、朝露がきらめいていた。
その裏手、ガーベラやマーガレットの
咲き誇る畑に、美咲の姿がある。
麦わら帽子をかぶり、花に水をあげながら
彼女はひとりごちる。
「……今日は来てくれるかな。あの子」
彼女の視線の先には、小さなベンチと
黒板がある。「こども花教室、
きょう午後3じ~」と書かれていた。
2.「やりたい」が「できる」になる場所
美咲と悠真が作った「Sunshine Garden」は、
ただの直売所じゃない。
観光客や地域の人が、花を“見る・買う
”だけでなく、“育てる・学ぶ・話す”
場所でもある。
例えば――
・親子の寄せ植え教室
・高校生の職業体験
・高齢者向けのフラワーリース作り
そして、美咲が力を入れているのが、
「こども花教室」だった。
「“好き”って気持ちを、ずっと育てて
いけたらいいな」
それが、美咲の小さな願いだった。
3.ひとりの少女
午後3時。ベンチにちょこんと座る小さな影。
彼女の名前は凛音(りおん)。小学3年生。
髪をひとつに結んで、少し人見知りな子だった。
「こんにちは、凛音ちゃん。来てくれてありがとう」
「……うん。お母さんが、行っておいでって……」
美咲は笑顔でスコップを渡す。
「じゃあ今日は、一緒に“自分の花”を
植えてみようか。好きな色、選んでいいよ」
凛音は戸惑いながらも、オレンジの
マリーゴールドを選んだ。
4.芽吹きの時間
それからの1時間、凛音は黙々と作業をした。
美咲が話しかけると、小さくうなずく。
時々、土の感触に小さな笑い声が混ざる。
「……なんか、いい匂いするね」
「うん。土も、花も、生きてるからね」
植え終わったマリーゴールドを眺めながら、
凛音がつぶやいた。
「この花、家に持って帰ったら、ちゃんと咲く?」
「咲くよ。お水あげて、声もかけてあげたら、
もっと元気になるよ」
凛音は、初めて目を見て言った。
「じゃあ……がんばってみる」
5.ふたりの花畑
凛音が帰ったあと、美咲は悠真に
その様子を話した。
「……自分の子どもでもないのに、あんなに
嬉しかったの、なんか不思議だよね」
悠真は微笑んだ。
「でも、美咲の花は咲いたんだよ。ちゃんとね」
ふたりが見渡す花畑には、今日もまた一輪、
新しい花が加わった。
6.エピローグ:手紙
翌週、「Sunshine Garden」に一通の手紙が届く。
「マリーゴールド、ちゃんと咲いたよ!
おかあさんが、玄関に飾ってくれたの。
また行ってもいい? りおんより」
美咲はその手紙を胸に当てて、小さく笑った。
「うん。またおいで。
ここは、いつでも“咲きたい気持ち”を
待ってるから」
☀️次回予告
第2話「雨の日のレター」(読了目安:約30分)
→ お客さんのいない静かな日、届いた
“ひとつの封筒”がふたりの想いを揺らす――
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