🌸『たはらサンシャイン』2

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第2話：ふたりの再会
（読了目安：約30分）

1．朝の光、花の香り

　朝、鳥の声で目が覚めた。
　美咲は窓を開ける。ひんやりとした空気に、
　花の甘い香りが混ざっていた。

「……この匂い、好きだったな」

　母が用意してくれた朝ごはんは、ふっくら
　炊き立てのごはんと味噌汁。
　窓からは田原の青空。
　東京では、空が四角かった――ビルの隙間にある
　「抜け」みたいな存在だった。
　でもここでは、空が堂々と空をしている。
　大きくて、風が自由に走っている。

2．キャベツ畑へ

　午前9時。
　美咲は悠真に誘われて、畑の手伝いへ
　行くことになった。

「こっちこっち。足元気をつけて。
　朝露がすごいから。」

　軽トラの荷台に乗せられ、揺られる道。
　白いキャベツが、一面に広がっていた。
　丸くて、みずみずしくて、まるで地面に
　並んだ宝石のよう。

「これ全部…？　こんなに育ててるんだ。」

「うん、全部ウチの。じいちゃんの代からね。
　今は俺がほぼやってるけど。」

　悠真は手際よく鎌を使い、キャベツを
　刈り取っていく。その動きは無駄がなく、
　リズムがあった。

「すごい…職人みたい。」

「毎日やってれば、こうなるよ。」

　ふいに、手を止めて美咲の方を見る。

「けど、そんなことより……美咲が手伝うって、
　奇跡だよな。」

「なによそれ。」

　二人とも笑った。

3．花畑の中で

　キャベツ畑の隣には、季節の花が咲く
　ハウスがある。ガーベラ、キンセンカ、
　マーガレット。
　太陽を見上げるように咲いていた。

「ここ、昔来たよね？　あのときよりずっと綺麗。」

「うん、覚えてる。あのとき……なんか、
　夢みたいだった。」

「美咲が“ここ、楽園みたい”って言ったの、
　俺ずっと覚えてる。」

「……言ったかも。」

　風が吹いた。花が揺れ、美咲の髪も
　ふわりと舞う。そのとき、悠真の視線に
　一瞬、言葉にならない想いがにじんだ。

4．ふたりの時間

　昼休み、二人は海辺へ歩いた。
　伊良湖の海は、キラキラと太陽を
　跳ね返していた。

「悠真、ここの空って、こんなに広かったっけ。」

「変わってないよ。美咲の見方が
　変わったんじゃない？」

「……そうかも。」

　美咲はスニーカーを脱いで、
　波打ち際へ足を浸す。
　水はまだ冷たい。でも、心地よかった。

「悠真、東京とか行きたくならなかった？」

「高校のとき、ちょっと考えた。でも……俺は、
　ここでいいかなって思った。」

「なんで？」

「朝、畑に出るとさ、“おはよう”って
　言ってくれる花があるんだよ。
　キャベツにも、風にも。なんかそれだけで、
　十分だなって。」

　その言葉に、美咲は何も返せなかった。

5．ばあちゃんの言葉

　その日の夕方。美咲は悠真の家に招かれた。
　そこには、白髪の小さなおばあちゃんがいた。

「まあまあ、美咲ちゃん、もうすっかり
　お姉さんだねえ」

「こんにちは、おばあちゃん。お久しぶりです。」

「悠真とまた仲良くしてくれて、うれしいわ。
　あんた昔ね、“田原が一番好きな町”って
　言ってたの、ばあちゃん忘れてないよ。」

　その言葉に、美咲の胸がきゅっとなる。

　忘れてた。そんなこと、自分で言ってたなんて。
　でも、あの頃の自分は確かに――
　この町が、大好きだった。

6．東京の友人

　夜、東京の友人からメッセージが来た。

「課題ヤバいー！今度カフェ行こー！」

「ねぇ、美咲ってさ、将来どうしたいの？」

　スマホの画面を見つめて、美咲は指を止めた。
　将来――どうしたいのか、自分でも
　わからなかった。

　ただ一つ、今日一日が心から穏やか
　だったことは、間違いない。

7．夜の空に願う

　部屋の窓を開けると、満天の星が広がっていた。
　東京では見えなかった星たちが、
　堂々と輝いている。

　美咲は、ひとつ深呼吸をした。
　そして、心のなかでつぶやいた。

「明日も、花を見に行こう。」

　それは、誰にも聞こえない、小さな決意だった。

🌙To be continued…

次回：
📖第3話「揺れる心」（読了目安：約30分）
→ 東京へ戻る日が近づく中、
　ふたりの関係に新たな変化が――