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第4話:田原の空の下で
(読了目安:約20分
1.東京の喧騒
春休みが終わり、大学の講義が再開された。
美咲は人混みの中で歩きながら、どこか
心が置いてけぼりになっているのを感じていた。
交差点の信号待ち、イヤホンから流れるのは
ポップスのメロディ。でも、胸の奥には――
田原の潮風の匂い、花の色、そして
悠真の声がまだ、消えずに残っていた。
2.ばあちゃんからの手紙
そんなある日、美咲の実家から封筒が届いた。
中には、田原のばあちゃんからの手紙と、
1枚の写真。
それは――悠真と美咲がキャベツ畑で
笑いあっている写真だった。
手紙には、こう書かれていた。
「美咲ちゃん、田原で笑ってるあんたの顔、
ほんとうにいい顔してたよ。人生は、
選ぶことの連続だけど、笑える場所は
大事にしなさい。」
それを読んだ瞬間、美咲の胸が、
ぽっ、と熱くなった。
3.再び、岬へ
週末、美咲は東京を抜け出していた。
電車を乗り継ぎ、再び伊良湖の海へ。
まだ何も決まっていない。
ただ一つ、「もう一度、確かめたい」
という気持ちに、素直になっただけだった。
田原駅に降り立った瞬間――春の潮風が、
彼女を迎えた。
4.夕暮れの岬
日が傾くころ、美咲は伊良湖岬へ向かった。
夕陽が海に沈み始め、空と海が
オレンジ色に染まる。
そこに、ひとりの影がいた。
「……悠真」
悠真は驚いた顔で、すぐに笑った。
「おかえり、美咲」
「ただいま」
二人はしばらく、言葉もなく並んで海を見た。
潮の音だけが、優しく包んでくる。
5.言葉にできなかった気持ち
「……迷ってたの」
美咲がぽつりと言った。
「東京の暮らしも、大学も、
全部無駄じゃないってわかってる。
でも、自分の居場所が本当はどこなのか、
わからなくなってて……」
「わかるよ」
悠真は、風に髪を揺らしながら言った。
「俺も、ずっと迷ってた。
でも、花を育ててるとね、やっぱり思うんだ。
“ここが俺の根っこだ”って。」
美咲は、小さくうなずいた。
「私も、まだ答えは出てない。
でも……田原の空の下でなら、
探し続けてもいいって思える。」
6.差し出された手
沈みきる夕陽を背に、悠真が
そっと手を差し出す。
「じゃあ、一緒に探そうか。
焦らなくていい。何年かかってもいい。
その途中に、花が咲けば、
俺はそれで嬉しいから。」
美咲はその手を取った。
しっかりと、でも柔らかく。
「……ありがとう。ほんとに。」
そのとき、どこからか風が吹いた。
遠くで花が揺れていた。
まるで、「よく帰ってきたね」と
言っているようだった。
🌅To be continued…
次回はいよいよ最終話。
📖最終話「明日も咲くように」
(読了目安:約30分)
→ 未来を見つめるふたり。
心に灯る“サンシャイン”の行方は――
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